なんとか1年目を終えた私に、後輩ができました。後輩は非常にコミュニケーション能力が高かったので、1年目にも関わらず、バンバン成果を上げていました。おかげで、上司からは「矢野、お前は後輩に負けているじゃないか」とハッパをかけられる毎日でした。

そんな2年目の夏。世間がお盆休みの時でした。会社を回っても働いている人があまりいないこともあって、他の営業担当と一緒に会社でのほほんと過ごしていました。すると、上司から「東豊中町(大阪の高級住宅街)でも回ってこい」と命令されたのです。「営業マンはスーツに潮吹いてなんぼ」という企業文化(現在は存在していないと思います笑)なので、とにかく1軒でも多くお客さん回りをさせたかったのでしょう。「お盆なら、普段会えない人たちも家にいるんじゃないか」と話す上司に、会社を追い出されるに送り出されました。

外回りを命じられたのはもう一人、私と同じく成績が奮わない営業マンでした。その人は早々に諦めていたようですが、私は真面目にその高級住宅街を、毎日毎日、一軒一軒チャイムを押して回りました。しかし、そう簡単に成果は出るものでもありません。会社に戻ると上司に怒られる日々。非常につらかったですが、やるしか私はなかったのです。

そして、お盆の最終日の夕方。その高級住宅街の中でも一際大きなお屋敷の庭で、私は、後に私の最大手のお客様になる方と出会うのです。

その方は、私が訪問した時には和装で広い庭の水撒きをしていました。ただならぬ雰囲気が漂っている方だったので緊張しましたが、思い切って話しかけると相手をしてくれました。なんとその方は、私がお盆の間中、毎日その町を訪問して歩いているのを見ていたそうで、「暑いのに頑張って訪問して回っていたでしょう。君がいつかうちに来るといいなと思っていたんだよ」と言ってくださったのです。

その方は、私に「なんで今仕事を頑張っているの?」「毎日大変でしょう」といろいろなことを質問してくれました。その優しさに思わず私も、「お盆の中、暑いけれどサボらずに1軒1軒訪問して回って、それでも全然契約が取れなくて……」といったことを、泣きながら話したのを覚えています。

その方は、今までもさまざまな会社とお付き合いをしてきたそうですが、新入社員と付き合うことが多かったのだとか。「自分が応援してあげることで、何か力になってあげられたらいいと思っているんだ。いいよ、何かおすすめの商品を持っておいで」と優しく微笑んでくれました。

「地獄に仏とはこのことか……!」と感動する私に、この方はのちに1億円という大金を預けてくれるのです。ポンと、1発で。

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